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現代音楽豆知識

2014.09.21

現代音楽豆知識
近代音楽 概観
アンドリュー・フロイント「近代音楽」は「近代」と「音楽」が組み合わされたシンプルな言葉ですが、多くの音楽家や
音楽愛好家の興味関心は日々移り行くため、「新しい音楽」の全容について言及することは
容易ではありません。以前は、音楽に関する全トレンドを一意に定義できたのかもしれませんが、
ここ数十年の音楽は、その可能性の広さや、影響を与える文化の多さ故、一意に定義する
ことは不可能に近いと思います。

激動の20世紀は、クラシック音楽は社会の変化の影響を特に受けました。新しい音楽は、
これまで良いとされていた文化的規範から距離をおき、より大衆的なトレンド(貴族的ヨー
ロッパから自由なアメリカへ)を取り入れるようになりました。新しい音楽は、セリエリズム
のような応用理論を広め、新しい技術を実験的に取り入れ、直感的表現そのものであろう「自然」
を探求するため、音楽の領域を広げるかのようにフロイトを学び、科学革命を受け入れました。
より国際的で文化の垣根が低い時代、様々な文化から得られた音楽様式は伝統的西洋音楽の
規範を広げようとする作曲家の作品に使われていました。

第二次世界大戦は、言うまでもなく全世界のあり方を変えた衝撃的な出来事でしたが、音楽は
またそれとは違う特別な影響を受けました。大量殺戮を行った全体主義者であったヒトラーと
スターリンがクラシック音楽を政治的に利用したため、音楽の美しさは疑わしいものになってし
まいました。アウシュヴィッツ収容所での大量虐殺が明らかになった後、ワーグナーだけでなく、
バッハやベートーヴェン、ブラームスといったドイツに関わる全ての文化がその犯罪に加担した
ような印象をもたれるようになりました。広島・長崎への原爆投下、そしてそれに伴う恐怖が
去った後、当時の作曲家達は、よろめきながらも新しさを求め、世界を救おうと、議論を重ねて
実験的な様式を追求しました。

ここ数十年、世界は日々発展し続ける技術によって一見豊かになり、満たされ、成長してきました。
一方、人類の表現の中で最も奥が深い形式である音楽も新たな可能性への夢を見つけています。
そのトレンドには次のようなものがあります。

電子音楽:技術革命によるコンピューターの普及とデジタル化は、現代の生活を一変させました。
もちろん音楽もその影響を大いに受けています。電子音は音楽表現の範囲を広げる新しい方法を
確立しました。コンピューターは私たちが自宅や職場など現代の生活で耳にしないことはない機械的
な音を生成することができます。コンピューターは、作曲家が自分自身で機械を用いて音楽を生成
することで、聴衆と作曲家の中間地点にいた「演奏家」を取り除いてしまうことすら可能です。科学
技術は、電子音と生演奏を共存させることで、他の音楽、言葉、その他日常音を興味深いものへと歪め、
変容させていきます。言ってみれば、技術とは現代生活を映す鏡のようなものです。

スペクトル音楽:スペクトル音楽はフランス国立音響研究所(IRCAM)の専門分野です。スペクトル音楽は、
数学的アルゴリズムに基づき、音色を分析したコンピュータープログラムを用いて作られました。スペクトル
音楽は、データの形でも、通常の楽器演奏者のために一般的な楽譜の形で印刷することも可能です。
スペクトルという用語は時が経つにつれて意味する範囲が広がり、作曲法も作曲家によって全く異なります。
しかし、音の分析や微分音のグラデーションはスペクトル楽派にとって重要な要素であることには変
わりありません。

ポスト・セリエル音楽:セリエル音楽は第一次世界大戦前後に発展した音楽で、既存の伝統的調性音楽
の規範を徹底的に拒否するとともに、その数理的可能性を広げたものです。セリエル音楽は複雑で感覚的
に鑑賞できるものではなく、音楽の構成要素を数学的に入れ替えていくもので、芸術というよりは学問的
探求のための無限の創造性を持ち続けています。セリエル音楽はどれも同じように聴こえるため、耳慣れない
聴衆を当惑させる傾向にあります。多くの新しい音楽表現がある中、現代作曲家の多くはある種のセリエル
音楽的手法を作品に用いるとともに、斬新な音楽要素を盛り込み、それらはより幅広い聴衆に受け入れられました。

ミニマリズム:ミニマリズムは1970年代にアメリカで発展し、クラシック音楽の壁を打ち破り、多くの聴衆を虜
にしました。例えば、フィリップ・グラス(Philip Glass)のコンサートはいつもロックファンでいっぱいです。音楽の
フレーズの絶え間ない反復と単純なハーモニーに象徴されるミニマリズムは、ポピュラー音楽がクラシック
音楽に影響を与えた代表例の一つです。ミニマリズムの初期作品は、音楽的フレーズがテープで繰り返し
流され、フェージングや数多くのデータ操作によってズレが作り出される小規模なものが多くありましたが、
徐々に大規模なオペラにおいてもミニマルの手法が幅広く取り入れられるようになりました。ミニマリズムは
そのありきたりさが歓迎され、また、驚くほどわかりやすい作風によって現代音楽における成功例の一つとなりました。

ミニマリズムの形式を重んじる性質は、宗教的な表現を可能にし、恐らくスピリチュアル・ミニマリズムと呼ば
れるのがふさわしいと思われるヨーロッパの一群の作曲家達の集成につながりました。モダニスト的な作曲家
にとって、ミニマリズムこそ彼らの表現を支える最適の手法でした。ミニマリズムの理論が何年もかけて慎重に
探求されているうちに、ポスト・ミニマリズムが頭角を現し始めました。ジョン・アダムズ(John Adams)のような
作曲家達がミニマリストの手法を他の作曲法とあわせて使い、古風で催眠術的な反復のもたらす輝きが、
多様な作品をより良いものにしていきました。

ニュー・フュージョン:
クラシック音楽は、常に様々な影響を受けながら発展してきました。作曲家は誰しも民族舞踊や、
大衆居酒屋で歌われる歌や、その他多くのものにインスピレーションを受け、モチーフを借りています。
しかし、生活がより都会的になり、20世紀の近代化が確立するにつれて、民族音楽学が主要な研究
領域となりました。ベーラ・バルトーク(Béla Bartók)や小説家で作曲家のポール・ボウルズ(Paul Bowles)
は「フィールドワーク」のために各地を訪れ、村や民族に伝わる音楽を録音収集しました。マウスをクリック
するだけで全ての情報を手に入れられる今日のグローバル・ヴィレッジ(地球村とでも言いましょうか)において、
作曲家は世界中のあらゆる種類の音楽を知ることができます。ロック・ミュージック、ジャズ、ゴスペル、
ガムラン、フラメンコ、ラテンダンス、これだけにとどまりませんが、こういった音楽はその音楽観やその音楽
の背景にある文化を現代音楽の作曲家の音楽のキャンパスへ届けるのです。チック・コリア(Chick Corea)、
オーネット・コールマン(Ornette Coleman)、ドン・バイロン(Don Byron)、アンソニー・ブラクストン(Anthony
Braxton)、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)といった著名なジャズ・ミュージシャンはクラシック音楽
に関わる作品を書いており、いずれも成功しています。

一匹狼:
ハリー・パーチ(Harry Partch)は20世紀の比較的早い段階で、伝統的西洋音楽の十二音音階に違和感
をおぼえていました。パーチは彼独自のオクターブ(従来の12音から43音へ)を考案し、また、彼独自の
記譜を演奏できるような新しい楽器を作製しました。その名も、クロメロデオン(Chromelodeon)、チモー・
キシル(Zymo-Xyl)と言った素晴らしい名前です。近年、作曲家達はパーチの未だ色あせない斬新な楽器
を経験しようとしています。数十年後、ジョン・ケージ(John Cage)もまた、彼自身の表現方法を模索して
いました。ケージの初期の作品に用いられるものに「プリペアド・ピアノ」があります。これは、ボルトやゴム
などをピアノ内部のピアノ線に挟むことで、演奏される音のうちのいくつかが通常のピアノとは異なる音を出し、
共鳴する面白い方法です。それ以来、多くの作曲家が自分のピアノに細工をし、プリペアド・ピアノのための
曲を作りました。その後、ケージは「偶然の音楽」(チャンス・オペレーション)という、音楽の要素が偶然に
よって決められるコンセプトの作品を作りました。(彼は楽譜を作る際に、サイコロをふったと言われています。)
当時は、ケージをペテン師と考える人もいましたが、今や彼は非常に影響力があり、受け入れられています。
モートン・フェルドマン(Morton Feldman)は何時間も続くような、とんでもなくゆっくりと進む作品で時を止め
ました。ジョージ・クラム(George Crumb)は演奏家を俳優にし、政治的目的のための作品を書きました。
才能にあふれるある種の狂気と知恵の伝統は今日も続いています。

サイトスペシフィック・ミュージック:
ヘンリー・ブラント(Henry Brant)は「空間音楽」と呼ばれる作品を作曲しました。空間音楽とは現代
のアンティフォナ(2群に分けた合唱を特徴とする教会音楽の様式)的な音楽で、例えば、いくつかの
アンサンブルがそれぞれ異なる荷船に乗って港を行き来するように、多くは野外で演奏されます。
アラスカ人のジョン・ルーサー・アダムズ(John Luther Adams)は大地を礼賛するための規模の大きい
特定の場所のための作品や、従来の演奏形態で演奏される、自然を喚起させるような音楽を書いて
います。彼は、2014年、「ビカム・オーシャン」(Become Ocean)で、ピューリッツァー賞音楽部門を受賞
しました。他には街中の道路の格子から、録音された電子音楽が流れてくるような一過性の「環境音楽」
を作る作曲家もいます。人々が通り過ぎ、「あれは何だ?」と問いかけることが目的です。イングラム・
マーシャル(Ingram Marshall)は港や教会の環境音を録音し、そのテープとともに演奏されるべき音楽
を後から作曲します。そうすることで、これまで意識されていなかった様々な物事を表現することができ
るのです。エイノユハニ・ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara)やその他の作曲家は北極圏でのサ
ウンドスケープを用いた作品を多く作っています。

新ナショナリズム:
前世紀、ヨーロッパの地図は何度も塗り替えられましたが、それによって発展した音楽の歴史もありました。
フィンランドは1918年に唯一ロシアからの独立を勝ち取りました。「フィンランディア」の作者によって勇気
づけられたこの小さな国の国民は、植民地時代、国家となることを強く望んでいました。シベリウス音楽院
は非常に多くの様々なスタイルをもった優秀な作曲家を育成しています。代表的な作曲家として、エイノユ
ハニ・ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara)、アウリス・サリネン(Aulis Sallinen)、マグヌス・リンドベルイ
(Magnus Lindberg)、カイヤ・サーリアホ(Kaija Saariaho)らが挙げられます。ソビエト連邦の崩壊によって、
全土の作曲家がこぞって自分自身の出自を再認識しました。ラトビアのペトリス・ヴァスクス(Peteris Vasks)
やエストニアのアルヴォ・ペルト(Arvo Pärt)から、 グルジアのギヤ・カンチェリ(Giya Kancheli)、アルメニア
のティグラン・マンスリアン(Tigran Mansurian)、そしてロシアのソフィア・グバイドゥーリナ(Sofia Gubaidulina)
がそういった面々と言えます。クレムリンの検閲が無くなって以来、ポスト・ソビエトの作曲家の多くは、一時は
見失われたモダニズムや諸民族の伝統音楽を取り入れ、しばしばキリスト教のための作品を書きました。

現代の古典主義者達:
第二次世界大戦後の数年後、従来の作曲法で作曲しているような作曲家は、事実上ブラックリストに載って
しまうようなものだ、という共通認識がありました。しかし、多くの作曲家は、近年改めて評価をされている
リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)やシベリウス(Sibelius)を足がかりに、20世紀ロマン派の音楽に
没頭し続けていました。今日の状況をみてみると、芸術家は音楽という一分野を越えて尊敬されており、
意外なことに、伝統的な交響曲や協奏曲、そしてソナタの作品が増えています。多くの作曲家が使っている
和声法は百年程前の作曲家が使っていた和声法とは比べものにならないレベルのものです。しかし、彼らの
作品は現代の今まさにここで生きているエネルギーによって光り輝いています。クシシュトフ・ペンデレツキ
(Krzysztof Penderecki)はかつて実験主義を全面に押し出したモダニストでしたが、後に彼がそれまで排除
していた伝統的作曲法を取り入れるようになりました。

多くの現代音楽作曲家は収集家とも言えます。伝統的作曲法や、ラジオやインターネットで知りえたもの
全てから学び、作曲の様々な新しいやり方を徹底的に調べ、そして自分自身のオリジナルなアイディアと組み
合わせ、独自の作曲スタイルを確立しようと模索するのです。才能ある作曲家にとってさえも、たった一楽章の
中で多様な音楽様式を切り替えられるアルフレッド・シュニトケ(Alfred Schnittke)のようになるには、手段を
選ばずに挑戦していくしかないのです。最後にお伝えしたいのは、今の音楽はいまだかつてない程に多元的
になっているということです。

現代音楽豆知識
監修: 林田 直樹