MIDORI | 現代音楽豆知識
18565
single,single-post,postid-18565,single-format-standard,ajax_fade,page_not_loaded,,vertical_menu_enabled,qode-title-hidden,side_area_uncovered_from_content,qode-theme-ver-7.4,wpb-js-composer js-comp-ver-4.5.2,vc_responsive

現代音楽豆知識

2014.09.21

現代音楽豆知識
電子音楽-概観
アンドリュー・フロイント第二次世界大戦後は科学技術(サイバネティックス)の進歩、「技術革新」の時代が
続いてきました。今回のリサイタルで演奏される曲の作曲家たちは、これまでにコンピューター
音楽かコンピューターで生成された音を含んだ器楽曲を書いてきています。彼らは意識的で
あろうとなかろうと、電子音楽になんらかの影響を受けていますが、今回のプログラムで電子音が
使われているのは、ダヴィドフスキーの『シンクロニズムス第9番』だけです。しかし、彼らの全ての
作品に、それまでにはなかった作曲に対する新しい洞察の影響が見られるのです。

慣習的な規則が複雑に感じられる音楽の世界で、音楽家や音楽愛好家がこのどんどん進化する
新しい音の世界の真価を理解するには、その歴史を概観することが役立つかもしれません。

電子音楽の歴史は100年足らずで、1920年代に考案されたオンド・マルトノやテルミンといった
楽器の歴史と重なります。(これらの楽器の名前は発明者の名前に由来していて、電子音楽の
領域では、作曲者もさることながら技術者が大きな役割を果たしています。)その頃から、前衛的な
趣向をもつ作曲家は、電気的に生成された音に惹かれ、創造的な探求の表現手段として、また
現代的な芸術表現として、音のパレットの範囲を広げていきました。

この一世紀近くの間に、「電子音楽」という言葉が示すものは、慣習的形式に則りながらも1台か2台の
電子楽器を器楽の生音と組み合わせる作品からコンピューターを用いる音楽へ、そして、古典音楽を
電子的に編曲するタイプ(シンセサイザーを用いてバッハの作品を演奏したアルバム『Switched on Bach』
のように)から、作曲者と技術者がコンピューター・プログラムを考案して、アルゴリズムを加えて、スイッチ
を入れ、コンピューターによって「作り出された」音楽へと変遷を遂げてきました。歌や楽器演奏、スタジオや
街頭の騒音など、録音された音がコンピューターに入力され、無数の方法で電子的に変換され、新しい
音楽が生み出されます。

別の言い方をすれば、「電子音楽」を構成するものは、電子化された伝統的な作品から、パターン化された
音を出すようにプログラムされたコンピューターまで、いくつかのスペクトルにそっていて、それを私たちは
音楽と呼び、多くのヴァリエーションが認められます。

電子音楽という新しい領域は技術革新なしには創生されませんでした。だんだんと作曲家自身が新技術を
考案する電子技術関係の会社や技術者と直接協働できるようにもなりました。技術的進歩が影響して新しい
音楽が生まれたのか、あるいは、作曲家のニーズが新しいアイディアの実現を可能にする技術を導き出した
のか、「鶏が先か、卵が先か」という議論になります。

新しい作品が推奨される一方で、新技術がもたらす音楽の可能性をリサーチする機関が開設されるという
国際的な動きがありました。1950年代初頭には、コロンビア大学のオットー・ルーニング(Otto Luening)は、
プリンストン大学のミルトン・バビット(Milton Babbitt)とロジャー・セッションズ(Roger Sessions)とチームを
組んで、コロンビア・プリンストン電子音楽センター(Columbia-Princeton Electronic Music Center)を設立し、
RCA(アメリカ・ラジオ会社、Radio Corporation of America)とシンセサイザーの音楽を開発しました。何年か
後には、東京に草月アートセンターが現代芸術のリサーチと発表の場を兼ねて創設され、その活動には、
武満徹をはじめとする日本の前衛芸術家やアメリカのジョン・ケージなどが深く関わりました。

それから数十年経った1977年、科学技術の進歩による可能性が急激に増す状況下で、IRCAM(イルカム、
フランス国立音響音楽研究所、仏正式名称: Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique)
が作曲家兼指揮者のピエール・ブーレーズによって設立されました。現代作曲家の人名事典に名を連ねて
いるような人が何人もIRCAMで、音楽と音響科学を研究し、最新の音楽技術を開発しています。初期の頃
にはクセナキスやストックハウゼン、ベリオのようなパイオニアが、また最近ではサーリアホやリンドベルイ
が所属していました。

電子音楽が生まれて90数年経ち、コンピューター技術は、芸術家の創造力を刺激し、容易に可能とするため
には必須の強力な道具となりました。実際には、IRCAM出身の作曲家からも多くの「アコースティック」な楽器
だけを使う作品が生まれていますが、音響の科学的・数学的属性の研究が、音響のコンピューター分析から
インスパイアされた「スペクトル音楽」のような試みも含む新しい思考を導き出しています。今日の前衛的芸術家は、
電子的な作品と伝統に基づいた作品をうまく組み合わせる技術を持ち合わせているという点で、技術革新の
申し子と言えます。