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2004.02.01
ルードウィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン
カテゴリー:作品解説

(1770年ドイツ、ボン生まれ、1827年オーストリア、ウィーンにて死去)

ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第6番イ長調 作品30‐1(1802年作曲)

第1楽章: Allegro
第2楽章: Adagio molto espressivo
第3楽章: Allegretto con variazioni

1802年、ベートーヴェンはウィーン郊外のハイリゲンシュタットで数ヶ月を過ごしました。前年に、ごく親しい一部の友人にのみ打ち明けていた聴覚障害が深刻化しつつありましたが、作曲家、そして、ピアニストとしての彼の名声は着実に高まっていました。精神的に不安定で、耳が聞こえなくなってしまうことへの恐怖心の中で、自分自身に落ち着きを取り戻すためにハイリゲンシュタットに滞在していましたが、その間も作曲活動は続けられ、交響曲第2番や作品30-1のピアノとヴァイオリンのためのソナタを含むいくつかの器楽曲が書かれました。

当時のロシア皇帝アレキサンダーに捧げられたこの曲は、最近ではほとんどコンサートで取り上げられていませんが、この曲の愛好者は、ベートーヴェンの室内楽曲の中で最も美しい作品だと評します。この曲では、演奏者が互いをよく聴きあうこと、そして、細部にまで細やかな注意を払うことが要求され、ベートーヴェンの音楽の典型とも言える激情のほとばしりとは明らかに異なった、大変優美な性質を持っています。

この作品は3つの楽章で構成されており、作品全体を通じて優雅さ、穏やかさ、やさしさ、そして、気品が感じられます。この曲では、演奏上の難しさを見せることなく、ピアノもヴァイオリンも同等に脚光を浴び、曲の美しさだけに注目が集まるような作品です。激しい曲想でよく知られているピアノとヴァイオリンのためのソナタ『クロイツェル』は、この作品が書かれて1年以内に同じイ長調で作られていますが、作品30‐1の特徴である牧歌的なスタイルは、ピアノとヴァイオリンのためのソナタの中で最後に作曲された作品96の穏やかな性質にヒントを得たピアノ・ソナタ第15番二長調作品28『田園』の雰囲気によく似ています。興味深いのは、ベートーヴェンはもともとこの曲(作品30‐1)の第4楽章として考えていた楽章を『クロイツェル』の最終楽章に使ったことです。したがって、作品30-1は3楽章のソナタとして出版されました。ベートーヴェンは、第2楽章によく使用したテーマとヴァリエーションの形式をこの曲では最終楽章に用いましたが、交響曲第3番『エロイカ』の最終楽章や独立して演奏される名曲の中でも同様にこの形式をうまく使用しています。

実際に、ベートーヴェンは最終楽章だけをテーマとヴァリエーションの形式に則り作曲しましたが、他の2つの楽章も漠然とヴァリエーションの形式になっており、彼がソナタ形式とロンド形式という作曲の慣習に長けていたことを象徴しています。第1楽章では、オープニングのピアノの低音に見られるリズムを重要視していることが、ヴァリエーションの構想からはっきりと見てとれます。このソナタはピアノによる高貴なテーマで始まります。このモティーフ(例)は、楽章全体で見られますが、冒頭の重要な役割に加えて、展開部の始まりや終わりに登場し、主要なテーマが戻る道筋を巧みに整えているような感じです。このリズムは、楽章の最後でも現れます。

(例1:第1楽章冒頭 小節番号1~2)


(例2:第1楽章 小節番号83~87)


(例3:第1楽章 小節番号247~249)


第2 楽章は、ロンド形式のコンビネーションで、A-B-A-C-Aの形式をとり、ベートーヴェンはヴァイオリンとピアノに平等に役割を与えるように特別な注意を払い、ヴァリエーションの手法にスポットライトが当たるようになっています。この形式では、忘れがたい旋律がヴァイオリンによって奏でられ、すぐにピアノによって繰り返されます。この組み合わせによる旋律はこの楽章中にさらに2回現れますが、その間には対照的な要素をもった部分が挿入されています。それぞれの部分は表面的には満ち足りていますが、まるで聴衆の関心をつなぐためかのように冒頭のテーマのヴァリエーションに戻ります。さらに、全ての重要な旋律の描写は2度行われ、通常最初はヴァイオリンによって、続いてピアノによって、装飾された形で繰り返されます。繰り返し部分を装飾するという伝統はオペラから来ており、この楽章の旋律のいくつかはイタリアのオペラに出てきそうなシンプルなメロディーに似ています。ベートーヴェンの一般的な"英雄"のイメージに相対して、満ち溢れた愛情と失われることのない情熱を持ち合わせたこの楽章は、叙情的な旋律を書く彼の別の才能を顕示しています。

最終楽章は、テーマとヴァリエーションの形式で、優雅なソナタにふさわしくシンプルなエンディングです。洗練されたドイツ舞曲の特徴を帯びたテーマで始まり、次にそのヴァリエーションが6つ続きます。最後のヴァリエーションは、Allegro, ma non tantoと表示され、劇的なクライマックスでグランド・フィナーレを飾ることはありませんが,むしろ、前向きで満ち足りた気分で幕を閉じます。

2004年 五嶋みどり
(編・訳:花田由美子)

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