(1822年リエージュ(ベルギー)生まれ、1890年パリにて死去)
ヴァイオリン・ソナタ イ長調 (1886年作曲)
第1楽章: Allegretto moderato
第2楽章: Allegro
第3楽章: Recitativo-Fantasia
第4楽章: Allegretto poco mosso
セザール・フランク作曲の『ソナタ イ長調』は、ヴァイオリンとピアノのために書かれたソナタのレパートリーの中では古典に属し、美しく、刺激的で、空想的で、痛烈なところもあり、ドラマに満ち溢れています。フランクの他の主要作品が、彼の死後から現在に至るまで、流行り廃りを繰り返してきたのに対して、この『ソナタ イ長調』は、常に演奏家からも聴衆からも愛されてきました。
ベルギー生まれのフランクは、その人生の殆どをパリで過ごしました。父親は息子がコンサートピアニストになることを望み、1830年にリエージュ音楽院に入学させましたが、その後、一家はパリに移住し、フランクはパリ音楽院でも学んでいます。彼は父親の期待通りのすばらしいピアニストになり、コンサート・ツアーを行い、様々な賞も受賞しましたが、ソリストとして輝かしいキャリアを築いていくためには自分で自分を売り込んでいかねばならず、性格的に向いていませんでした。
フランクは若いときから作曲に興味を持っていましたが、父親はあまり快く思っていませんでした。彼が作曲に本気で取りかかれるようになったのは、パリのサント・クロチルド教会の首席オルガン奏者になった1858年頃からです。彼は生涯この教会でオルガン奏者を勤め、1872年からはパリ音楽院のオルガンの教授として後進の指導にあたりました。教え子の中には、ヴァンサン・ダンディ、アンリ・デュパルク、エルネスト・ショーソンらの熱心な生徒がいました。
フランクは、古典的なスタイルで半音階的和声進行を確立したロマン派の作曲家です。晩年の10年間に、『交響曲ニ短調(1888年作曲)』、『ピアノとオーケストラのための交響的変奏曲(1885年作曲)』、『ピアノのための前奏曲、コラールとフーガ(1884年作曲)』といった名作を次々と生み出しました。ヴァイオリンとピアノのために書かれた唯一の『ソナタ イ長調』もこの密度の濃い時期の作品で、ベルギー出身のヴァイオリニストであるウジェーヌ・イザイの結婚のお祝いとして贈られ、1886年9月に初演されました。公の場での初演は、イザイのヴァイオリンとイザイ夫人のレオンティーヌ・マリー・ボルド=ペーヌのピアノによって、3ヵ月後にブリュッセルにある近代美術館で行われました。
このソナタは4楽章から構成されており、テンポがゆっくりな楽章と速い楽章が交互に組み合わされています。第1楽章が始まると、中断されることのないメロディーとバルカロール(ゴンドラの船頭が歌う舟歌)の優しい揺れを思い起こさせるようなリズムで満ちたストーリーが始まります。情熱とエネルギーが詰まった火の玉のような第2楽章は、ヴァイオリンとピアノのデュオ作品の中で最も難しいパッセージの一つとされているピアノのソロで始まります。速いテンポで絶え間ない動きが続くにもかかわらず、メロディーのなめらかさは傑出していて、躍動感とともに緊迫感に包まれます。第3楽章は幻想に満ちた瞑想的な楽章です。暗く、精神的に抑えたような雰囲気の中で流れるうっとりとしたメロディーが放縦さをかもし出し、平穏で達成感のある第4楽章とは効果的なコントラストを見せています。第4楽章冒頭のピアノによる4分音符の流れるようなメロディーは、カノン形式で、すぐあとにヴァイオリンが続きます。2つの楽器は全体を通してカノンを先導する立場を交替で受け持ちます。ソナタは活気に満ちて、エレガントに終わります。
2005年5月 五嶋みどり
(編・訳:花田由美子)

