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作品解説
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2003.03.01
カロル・シマノフスキ
カテゴリー:作品解説

(1882年ウクライナ、ティモシュフカ生まれ、1937年スイス、ローザンヌにて死去)

3つの神話、作品30(1915年作曲)

1. アレトゥーザの泉
2. ナルキッソス
3. ドリュアスとパン


20世紀前半はフーベルマン、クライスラーやイザイなどの偉大なヴァイオリニスト達が多く活躍した"ヴァイオリニスト達の黄金時代"と言えます。驚くべき数の活動的な演奏家がヴァイオリン奏法の基準を高め、世紀を越えて現在に伝えられています。

このような芸術的に活気に満ちた時代に生きたパウル・コハンスキ(1887-1934)もヴァイオリンの巨匠達のうちの一人に数えられるでしょう。ヴァイオリニストとして卓越した技術を持っていただけでなく、コハンスキは音楽仲間からも尊敬される音楽家でした。特に彼が協力し、影響を与えた作曲家は多く、中でもプロコフィエフやストラヴィンスキーや同じポーランド人のシマノフスキらはコハンスキから強い影響を受けました。また彼は他の楽器の為に作られた曲をヴァイオリンの為に編曲することも得意としていました。

カロル・シマノフスキはコハンスキの5歳年上で、1882年にウクライナで生まれました。20世紀前半のポーランドを代表する作曲家で、現在では作曲家として高い評価を得ていますが、当時は作曲家というよりも偉大なピアニストの一人として知られていました。

シマノフスキの想像力豊かなインスピレーションは、ギリシャやアラビア・ペルシャの古代文学からの発想によるものです。愛の哲学に魅了され、彼は熱情とエクスタシーの世界に引き込まれ、心を奪われます。ヴァイオリンの為の曲を書くにあたり、シマノフスキはコハンスキに協力を求め、技術的なアドヴァイスを受けました。現在シマノフスキのヴァイオリン曲の特徴と認識されている新しい色彩やスタイルは二人で共同して作り上げたものと思われます。

彼ら独特の色彩感覚を明確に簡単に言葉で表すことは出来ません。シマノフスキのフレーズは非現実的で空中に浮かんでいるようです。かすかな光を放ち、時に感覚的であり、ほとんど停止しているかのようなところもあり、不吉で不安感にさいなまれた雰囲気が漂っています。この新しいスタイルが創造され、確固たるものとなったのが"神話"です。「今まで試みられなかった様式の音楽による語りかけ」と本人が述べています。

この曲はギリシャ神話の登場人物に基づく3つの音楽詩で、ヴァイオリンのトレモロやトリル、重音、ハーモニクスやピチカート、ミュート(弱音器)のオン・オフ、またピアノの広音域にわたるアルペジオ、幻想的な和音、ペダルの操作など、多種多様な音響効果を使って、古典文学を想起させます。

1. アレトゥーザの泉

水の精アレトゥーザは狩りと森を愛し、男性に心を動かされることはありませんでした。ところが、川の神アルペイオスはそんなアレトゥーザに恋をしてしまったのです。水浴びをしていたアレトゥーザは思わぬ展開に全速力で逃げますが、彼が近づいてくるのに気づき、女神のアルテミスに助けを求め、アルテミスはアレトゥーザをすばやく泉に変えてやります。その伝説の泉はイタリアのシラク-ザのオルティギアに残っています。

シマノフスキはピアニストに両手を自由自在に交差させて演奏させることで水の流れを表現させ、ヴァイオリニストはそのピアノをバックに、ミステリアスな神話的なメロディーを奏でます。水が流れる様子はヴァイオリンのトリルや重音の指を変えながらの上行からも想像することができます。テンポはフレキシブルで、そのときの雰囲気に合わせて、伸びたり、速くなったりします。最後は泉の細かい泡が消えて、神秘的に終わります。

2. ナルキッソス

ナルキッソスは泉に映った自分の姿に恋してしまい、どうしようもなく、悲しみに打ちひしがれて、その泉のそばで死んでしまいます。全ての精が彼の死を深く悲しみ、お葬式を準備していると、彼の体が消え、そこに花が咲き乱れました。その花は彼の名前にちなんで水仙(Narcissus)と呼ばれるようになりました。この音楽詩は夢のようななまめかしい雰囲気を持ち、緊迫した不安感があります。まさに恋に落ちているという感覚です。meno mosso (より遅く)と記されている第2セクションは、魔法にかかったような天啓の一瞬です。2つの楽器がお互いを追いかけあい、小さい石が泉に投げられたとき波紋が広がるように、自分の姿が不安げに揺れ動く様子を音楽で表現しています。この音楽詩は謎と自己喪失の暗示の中で消えていきます。

3. ドリュアスとパン

パンは半分人間半分動物のマイナーな牧神です。彼の容姿は彼を見てしまった者にパニック状態を引き起こします。パニック(panic)という言葉もこの神話のパン(Pan)の名前に由来しています。彼はヘルメスの子孫で、ヤギ飼いや羊飼いにあがめられており、木の精や森の妖精ドリュアスを次々に好きになり、追いかけまわします。妖精シューリンクスはパンに捕らえられるのを恐れて、父親の川の神ラドウに嘆願し、川の葦に変えてもらいましたが、パンはその葦から笛を作り、常に持ち歩いたと言われています。ヴァイオリンのハーモニクス(楽器の倍音を使った特別な効果を持つ音)がこの笛の音を表現しています。




2003年3月 五嶋みどり
(編・訳:花田由美子)


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